
プレミアリーグ第14節を終えて、ハーヴェイ・エリオットの総プレー時間はわずか96分。
かつて、大怪我を負ったことなど、どんな逆境にも跳ね返す強さを見せてきた彼であっても、この現実は決して軽いものではないと思います。
アストン・ヴィラへのローン移籍は、出場機会を求めての決断だったはず。
しかし、蓋を開ければ想像以上に厳しい環境がそこにはありました。
そんなエリオットのいまを、私なりに静かに見つめたいと思います。
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■試合に出られない日々
若き才能がいま抱える“宙ぶらりんの時間
プレミアリーグでの出場試合は4試合。
その総プレー時間は96分──。
試合に出て、実戦で自分を磨くためのローンであるはずが、その目的が果たされていませんね。
若い選手にとって「試合に出られない日々」は、想像以上に苦しいものだと思います。
焦りも出るだろうし、エリオットほど強くなければ自分を疑い始めてしまうかもしれない。
練習場では全力を尽くす。
しかし週末になるとベンチやスタンドで試合を見つめるだけ。
自分の時計だけが止まってしまったかのような、あの独特の焦燥感。
どれほど強い心を持つエリオットでも、平気でいられるはずがないだろうと。
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■ユルゲン・クロップとアルネ・スロット
♦ユルゲン・クロップ
クロップの「家族主義」──遠く離れた選手にも届く温もり
エリオットが育てられたのは、ユルゲン・クロップという“父性的な監督”のもとだったと私は考えています。
・ローン先でも頻繁に連絡を送り
・悩みがあれば励まし
・成功すれば一緒に喜ぶ
クロップさんは、彼等を「私たちの家族」と呼んだ。
その眼差しは、若手にとって大きな支えであり、エリオットもその一人でした。
クロップさんの下で過ごした時間は、エリオットにとって“守られている感覚”を与えていたと言えそうです。
そうした背景があるからこそ、今の孤独はより鮮明に浮かび上がるように私には思えるのです。
♦アルネ・スロット
スロットの「合理主義」──役割を尊重し、線を引くプロフェッショナル
一方、アルネ・スロット監督は、クロップさんとはまったく異なるタイプの指揮官だと言えそうです。
彼はヴィラへ向かったエリオットについての質問にこうこたえました。(リーズ戦を前にした会見の場での発言)
「状況は理解しているが、彼とはほとんど話をしていない。
ヴィラでのプレー時間に関する話なら、ヴィラに聞くべきだ。」
この言葉だけを切り取ると、冷たい印象を受けるかもしれません。
だが、その本質は“合理性”であり、“責任の所在を明確にする誠実さ”でもあるのでしょう。
そう思いたい自分と、そうでない自分が葛藤していることも事実ですが。
・ローンに出た選手は、期間中は借り受けたクラブの指揮下にある
・干渉しすぎれば、ヴィラの監督にもエリオットにも迷いが生まれる
・クラブ間の関係を尊重し、線を引くことで選手の立場を守る
スロット監督は、感情ではなく構造を理解し、正しく距離を取るタイプの監督のようですね。
決して冷たいわけではなく、
「必要以上に手を出さないことで、選手の環境を尊重する」
という考え方なのかもしれません。
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■ふたつの哲学の狭間で
二つの哲学の狭間で揺れる若き才能──それでもエリオットは折れない
クロップさんが残した“温かさ”
スロット監督が示す“合理性”
その二つの監督像の狭間で、エリオットはいま、孤独とも向き合っているように思えて仕方ありません。
しかし、彼は何度も逆境を乗り越えてきた若者です。
・17歳で大怪我を負いながら復活
・ポジション争いでもたびたび自分の価値を証明
・若手離れしたハートの強さを持つ
だからこそ、今回のローンが試練であっても、彼は必ず何かを掴んで帰ってくるに違いありません。
苦しい時間が長ければ長いほど、戻ってきたときの姿は輝くもの。
私はそう思いたいし、リバプールファンはそれを知っている。

■エリオットの時間を信じたい
“その先”へ進むために──いまは静かに、彼の時間を待つだけ
リバプールに戻ったとき、エリオットはきっと大きく成長している。
そのための準備期間が、いまの苦境なのだと考えたい。
私の偽らざる思いです。
スロット監督は合理的にチームを組み立てる指揮官であり、クロップさんは温もりで選手を包み込む監督だった。
どちらが優れているという話ではないのでしょう。
どちらの哲学も、リバプールを前へ進めてきたことに変わりはないですし。
エリオットはといえば、その両方の影響を受けながら成長していくことができる。
いまはただ、彼の中で熟成されていく“見えない時間”を信じたいですね。
その向こう側には、再びアンフィールドの光が待っているはずなのですから。
