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“KOPから最も愛された男”スティーブン・ジェラードが引退を表明した日

Steven Gerrard is the Kop's most beloved legend

はじめに──静かに時代が移り変わった日

リバプールは、いまや世界屈指の強豪クラブになりました。
黄金時代を持ちつつ、長い低迷期を過ごした中で復権を果たした。
ユルゲン・クロップ監督の成功をきっかけにファンになった人々も多く、それはクラブにとって喜ばしいことに違いありません。

ただ、リバプールには今とは異なる苦しい時代もありました。
結果が出ない季節、それでもスタジアムへ足を運ぶ理由が「勝利」ではなくひとりの選手と共にあることだったあの頃です。

ジェラードという灯り──勝てない季節を支えた存在

スティーブン・ジェラードは、KOPから最も愛された男でした。
戦う姿勢、責任感、クラブへの忠誠心。
どんな状況でも逃げず、ピッチに立ち続けました。

クロップ時代からリバプールを見始めたファンにとっては、ジェラードは伝説として語られる名前かもしれません。
それは自然なことであり、ジェラードといっても遠い存在に思えてしまうことでしょう。

しかし、スティーブン・ジェラードの存在は、地元KOPにとって現在進行形のリバプールの象徴なのです。
その真価は、数字やタイトルだけでは語り尽くせません。
彼は、クラブの灯そのものだったのです。

幼い頃、マンチェスター・ユナイテッドのシャツを着る意味を知らなかったスティーブン・ジェラード


2016年11月24日──ひとつの時代がそっと終わった日

2016年11月24日、ジェラードは現役引退を表明しました。
大きな衝撃というよりも、静かに胸へ沈み込むような知らせでした。

「ああ、ひとつの時代が終わったんだ」

その想いが、多くのサポーターの胸に浮かんだはずです。

彼がいなくなったあとも、リバプールは歩み続け、やがてクロップのもとでチャンピオンの座を射止めることになります。
しかし、その道の基礎に、ジェラードが灯し続けた火があったことは疑いようがありません。

ジェラードを語る3つの瞬間

ここからは、ジェラードという選手の本質が凝縮された3つの試合を振り返りたいと思います。


① イスタンブールの奇跡(2005)──「まだ終わっていない」と言った男

0-3からの逆襲──フットボール史に残る奇跡の中心にいたのは、スティービーでした。
後半の最初の1点を頭で叩き込み、拳を突き上げ、スタンドを揺らしたあの瞬間。

あのゴールで、試合の空気が完全に変わりました。
チームも、観客も、「まだいける」と信じ始めたのです。

たったひとりの選手が試合の運命を変える、そのことを私自身も思い知らされたものでした。

② オリンピアコス戦(2004)──クラブを救った一撃

CLグループステージの最終節。
あと1点取らなければ敗退という状況で迎えた終盤。
ジェラードはペナルティエリア外から、渾身の一撃を突き刺しました。

アンフィールドの解説者が叫んだ
「You beauty! What a hit!」
という名言は、今も語り継がれています。

このゴールがなければ、イスタンブールの奇跡は生まれていません。
クラブの未来すら変えた魂のシュートでした。

③ 2006年FAカップ決勝 vs ウェストハム──“Gerrard Final” と呼ばれた日

試合は2-3とウェストハムがリード。
時計は90分を回った。
誰もが敗戦を覚悟し始めた時間でした。

しかし、負傷し脚を引きずりながらも、
ジェラードは信じられない弾丸ミドルを叩き込みます。

あの“ミラクル弾”によって試合は延長へ。
最終的にリバプールはPK戦の末に勝利し、
この大会はこう呼ばれました。

「ジェラードの大会(The Gerrard Final)」

90分を過ぎてのあの一撃は、単なる同点弾ではなく、“決してあきらめない男” を象徴する瞬間そのものでした。

ジェラードを振り返るということ

これら3つの試合は、ジェラードのキャリアの一部にすぎません。
スティービーが生み出したドラマ、奇跡は、数え切ることさえできないほどだったからです。
そのどれもが「彼がリバプールである理由」を示しています。

タイトルを逃したシーズンがあっても、彼はサポーターの心を離しませんでした。
その背中に、リバプールというクラブの誇りが宿っていたからです。

スティーブン・ジェラード リバプールデビュー25周年

ジェラードをいま振り返る意味

強いリバプールを見て育ったファンも、
苦しい季節をともに歩いたファンも、
その双方に、スティーブン・ジェラードの名前は特別な重みを持ち続けています。

2016年11月24日。
その日、静かにひとつの時代が幕を下ろした。
しかし、今もなおリバプールの8番の存在はアンフィールドを誇り高い場所とし、サポーターのハートに火をつけ続けています。

スティービーが最も欲しかったタイトル?
それは間違いなくプレミアリーグだったことでしょう。
悲願に手は届かずとも、KOPの胸にはスティービーが生き続けているのです。
無論、私の心の中にも。

スティーブン・ジェラード。
その名前に敬意を込めて、今日この日を振り返りたいと思います。
唯一無二のキャプテンであり、スカウサーでした。

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Toru Yoda

ただの埼玉の隠居です

Liverpoolのことを書き続けて幾年月
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